第10回総会 記念講演会 2007.10.19 大阪府商工会館講堂
DECENT WORK弁護士 牛久保秀樹 さん
人間らしい労働の復権と日本国憲法

講演要旨

ILOとの出会い

 弁護士になり30年以上になりますが、法律そのものをもっと労働者の権利に役立つものに変えないと、働く人たちを本当に守ることにならないのではないかと疑問を持つようになってきました。
 単身赴任の裁判では、会社に配転する権利があるかないかという議論になるのですが、もっと根本的に、例えば父親が子どもの日々の成長を見守る権利がそもそもあるのではないか。
 過労死裁判では、過労死するのは結果であって、その前に人間らしい生活や労働がズタズタに切り裂かれている。亡くなる前に人間らしい労働を掲げてたたかうことができないのだろうかと。
 こんな時(1992年)にILOに出会いました。

現在のILO

 ILO条約は今全部で187ありますが、第1号条約というのは8時間労働条約です。日本政府は88年たってもこの8時間労働じょうやくをまだ批准していません。
 労働時間や休憩や休暇に関する条約が全部で18あります。有給休暇に関する条約は、年3週間の休暇を認めなければならない、うち2週間はまとまって取らなければいけない、しかも労働者が守らなかった場合には使用者が罰せられるというものです。この18の条約を日本政府は一つも批准していません。
 21世紀のILOは「ディーセントワーク」を提起しています。私たちは「人間らしい労働」という訳で広めることとしました。「ディーセント」を直訳すれば、「こざっぱりした」ちう意味です。
 ディーセントなレストランなどと使われます。あまり値段は高くないがちょっとは豊かな時間を過ごして、家族が今日は良かったねと帰って来るというようなレストランです。
 今回衝撃的なのは「ディーセントワーキングタイム」という問題提起です。
 @労働者の健康に良い労働時間
 A家族にフレンドリーな労働時間
 B男女平等を進める労働時間−根本問題は男性の異常な長時間労働であると分析。
 C生産的な労働時間−職場ではつらつとした労働者であることによって生産性は高まる。
 D労働者の選択と影響が認められる労働時間−その一つがオランダの正規労働者・パート労働者選択自由化法です。オランダの「正規労働者・パート労働者選択制とは・・・オランダのパート労働者は、社会保障など正規労働者と同じです。単位賃金も同じです。違いは労働時間のみで、それで収入が変わるというだけです。
 今までILOは、労働時間の「量」に関わる条約を作ってきましたが、現代社会ではさらに労働時間の「質」に関する条約が必要になってきているというのです。

日本社会との関わり

 ILOは日本社会を変える成果をあげてきました。野村證券の女性差別の事件がそのひとつです。野村證券の女性労働者はいくら頑張っても課長代理、課長になれないということで裁判に立ち上がり勝利判決を勝ちとります。同時にILOが、野村證券のコース別人時制度はILO条約に違反すると是正勧告をしました。
 スウェーデンのGES社という投資適格判定会社は、女性差別をする野村證券は投資不適格だという情報を全世界に流しました。野村證券は是正せざるを得なくなり、裁判書の和解につながるのです。

戦争と平和と国際労働基準

 ILOは1918年第1次世界大戦の終了とともに作られました。労働者の権利を無視して働かせる資本主義社会があるということが世界大戦の原因になるんだ。だから全世界に公正な労働条件を実現することが二度と戦争を起こさせない重要な保障なのだ、ということで設立されたのです。全世界の平和というものは、働く人たちの権利が守られ、フェアーな労働条件が実現してはじめて守られるということです。
 いま日本では、憲法9条を変えて戦争への道を直進しようという動きと、ワーキングプアといわれる若者たちが、同時代に存在しています。平和という問題がそういう働く人々の労働条件と結びついているんだということを、もっと日本の多くの人たちに知ってもらう必要があると思っています。

大阪損保革新懇ニュース 88 2007.11.1