No.18 2000.3.27.

ブックレット「どうなる どうする 損保の未来」刊行記念シンポジウムに225名

価格破壊・地域営業・外勤営業・損害調査

「誇りと気概」4報告に共感

 去る3月10日、大阪中央区コスモ証券ホールにおいて大阪損保革新懇編ブックレット「どうなる どうする 損保の未来」刊行記念シンポジウムが開催されました。
 会場には損保労働者・OBをはじめ代理店・労働組合の共済担当者など225名が参加しました。
 シンポジウムの冒頭、「インシュアランス」損保版宇田川編集長から「最近の損保情勢の特徴」として「品川講演」の反響と現状についての講演の後、4名から「価格破壊の現状」「地域営業」「外勤営業」「損害調査」についてブックレットの要旨を報告しました。
 報告後、司会者から会場参加者に感想・意見を求めたところ四氏からも四報告に対する賛同・支持が表明され、有意義なシンポとなりました。

「価格破壊」競争を止めよ T社・火災業務担当課長

 品川講演では料率競争にふれ、「極めてナイーブな形で料率競争」していると言っているが、大阪弁で言えば「あほちゃうか」といわれるようなことをやっているのではないか。

 96年4月に新保険業法が施行され、同7月には大規模割引制度が実施された。97年1月には大規模割引の対象が緩和、98年7月に算定料率の遵守義務が廃止され、さらに98年9月には事業者契約における特約・料率の自由化が本格化した。

 私たちは保険料率を遵守しなければならないと教えられ、入社以来忠実にそのことを実践してきたが、最近はそのようなプライドも捨て、節操のない競争に没頭している。

 いくつか紹介したい。
 S社では警備会社と契約していると火災保険を割り引いてくれるそうだが、おたくはどうかと問われ、即座に当社もできると答える社員。そんなことができるはずがないが、みすみす契約を失うのがいやで、言ってしまう。営業の現場ではやむにやまれず、言ってしまう。
 また、ある社員はBIDの要請に、自社の規定でできる最高の割引を使った提案をしたが、同じ会社の他の支社の提案に負け、契約が流れてしまった。ビルの場合、一般的に特級か一級だが、プロなら正しく判断できるのに、わざと間違えて特級でしかとらない。
 以前は契約者が保険料を下げろと言ってきても、保険の精神を話し、公正な料率なので理解してくださいと、保険に誇りをもち仕事していたが、そんなものはどこかに飛んでしまった。

 損保産業が健全な道を進むよう変えていきたい。

岸和田の営業の現状 N社・営業支社支社長代理

 泉州・岸和田を中心とした地域営業の現状を報告する。

私は岸和田支社で9年。岸和田はかっては繊維王国だったが輸入品の前に衰退の一途で、バブル後の不況のあおりで各社は撤退、統合を進めている。

 専業代理店は、
 @火災保険は落ち込み、自動車保険も限られた市場となった中で外資系損保や新たな生保子会社の参入などで競争相手が増え、他社に取られ前年実績に届かない。おまけにどんどん値下げされ、「人身傷害保険」へきりかえてなどでくい止めている。
 A来年7月からの代理店手数料の自由化に向け、各社は70%の基本給の上に各代理店の状況で判断する方向
 B大手各社の「中小損保」への乗合も激化し、「この会社についていって大丈夫か」という思いが揺さぶりの中で起こっている。

 そんな中、外資系損保のあり方が問われている。ある専業代理店はそんな中での外資の募集チラシへの疑問を語っていた。多くの人は「無審査」「79歳まで加入」「骨折保障」との文言で「生命保険」と勘違いしている。事故があるまで保険料は払い続け、事故があって初めて保障実態を知る。ある専業代理店は「一人一人の生活や事情を考えたら会って話をして助言するのが保険では必要」と言い、別の専業代理店は、「安くても事故の時がやっぱり心配」とお客に言われたという。

 今、代理店制度は必要と痛感する。身近な暮らしの安全パートナーとして情報提供し、個々の客のリスク把握とぴったりの保険を設計する。事故の時すぐ相談できる・・・。日本に根づいたこの制度を守ることが本当に必要だ。

外勤営業の誇り A社・契約係主査

 代理店、外勤・直販社員の「ため息、挫折感」は日に日に高まっている。景気の悪化で客が倒産したり、共済や外資、他社などに取られていく。新商品も矢継ぎ早に出されそれに伴う機械対応ができない。人間性無視のノルマも強要され、結果として自信を喪失し、絶望感を抱き、廃業まで考えているのだ。

 それでは座して死を待つのか。もう一度、生き残るためにはどうすればいいのか・・・。
 品川講演は代理店や直販労働者存在の重要さを改めて考えるきっかけを作ってくれた。

 課題は確かにあるが、私たちは武器を持っている。それは一枚の証券にこめた重みだ。対面販売、顧客の相談相手、客からの揺るぎない信頼をかち得ているということである。

 会社は現在、「会社政策に順応できない社員や代理店は不要」との論まで展開しているが、それに抗しきれず、客の望まない商品まで売っていないだろうか。また、自社のキャンペーン商品で自爆する(自腹を切る)などは日常茶飯事になっているし、これは私の自己反省の部分でもある。

 私が最近体験した事例と多くの人が類似の経験をしている。客との対話の中で、損保情勢の話題を避けず、むしろ客の心のうっ積を引き出すことで納得感をもたらすものだ。

 私たちがベストを尽くせば、客は安心して任せられる人として選択してくれる。自信を持とう。会社は従業員・代理店に競争のしわ寄せをしているが、企業がどのようになっても、顧客との信頼関係に変わりはない。私たちは会社の事情より顧客のニーズを軸足として優先すべきで、顧客の利益を守ることこそ我々に課せられた使命だ。日本の損保産業は私たちが守るという気概とプライドを改めて持とう。


損調サービスの充実めざす N社損害サービスセンター所長

 損保は日本のあらゆる産業の中でただ一つ、特別な法律的な立場にある。それは「提供する商品を受け入れない自由を認めないという点だ。

 電気、ガス、鉄道など公益産業はいろいろあるが、利用しないことで罰せられることはない。しかし、自賠責保険は違う。加入しないで車に乗ることも、車を持つこともできないのであり、無保険は厳しく罰せられる。だから社会的責任が裏付けられる訳で、私たちは責任を受け止める義務があるとともに、誇りをお互いに持ちたい。

 その会計は国会で審議されることが義務づけられているのだから、全国民から付託された社会的機能といえよう。その第一線を損調サービスが担っている。

 社会的責任は自賠責だけではない。

 被害者保護の体現者の役割。不正を許さず、公正な支払いをする。専門性を発揮し、契約者の不安・疑問にどう応えるか。これが損調サービスの社会的役割だろうし、国民からの付託に応えられるような「産業の宝」ではないか。

 こういう大きなことも、一つ一つの仕事も考え方は一つであり、同じように取組んでいきたい。


参加者の声から

あまりにも無節操  Y氏(損保代理店社長)

 変革というか、ムチャクチャな時代に入ったことを憂いている。芯の通った話で、あるべき損保はどういうものか、考えの基点が一致した。

 今の時代は振り子が振れすぎている。これを正常な位置に戻さないといけない。ダンピングにも程度がある。「これでもかこれでもか」のおまけ競争に走っており、代理店として恥ずかしい。これではいけない。消費者に信頼されてこそ初めて損保は成り立つのに、あまりにも無節操だ。

 これを軌道修正させるには、みなさんのように損保を愛する人たちの声が上に届くようにしなければならない。

連帯・協同の発展を  Y氏(公務員労組損保部門責任者)

 4月1日から航空運賃が自由化された。「自由化で安くなる」との誤解が多いが、内実はそうではない。東京大阪間は従来の16,250円から18,500円に値上がりした。保険も同じような状況で、ダンピングと割引競争だ。安くなるのは加入者にとって喜ばしいが、それがいつまで続くのか。いずれは強い会社だけが残り、寡占化し、値上げ・割高に転じていくのではないか。

 代理店経営は厳しく、電算化、保険の多様化などで多忙化し、毎日残業しているが、これがすべて保険会社の責任とは思わない。どこか間違っている。多忙化の中でギスギスして競争させられている。こういう流れを断ち切るには、政治の流れを大きく変えなければならない。保険の加入者、国民、代理店、労働者すべてが連帯し、どこか間違っている社会システムを変えていかなければならないのではないか。

運賃ダンピングの二の舞踏むな  I氏(労働共済責任者)

 私は旧運輸一般の出身。運輸業界では10年前に規制緩和され、ダンピング競争をモロに受けた。運賃は1回で2万7〜8000円だったが、今や1回4000円になり、人件費も出ない。経営者も労働者も大変厳しい。運転手にアンケートをとったところ7割が「居眠り運転」経験者だ。

 うちの共済は損保の商品(制度)が変わるたびに、パンフの刷りなおしやコンピューターの手直しなど、労働強化になっている。「人身傷害なんとか」というように分からんやつまで出ている。
 加入者は万が一の時のためにかけているのに、説明する側も分かっていない。
 もっとシンプルで消費者が分かるものにすべきだが、反対の方向だ。

 損保の「ビックバン」は弱者を切り捨てた。共済も損保も一致してできることがあり、お互いに頑張っていきたい。

市民社会産業の役割を期待  S氏(大学助教授・金融保険論)

 損保に関わる人は、この産業が何かを腑に落とすことが問われている。キーワードは市民社会。そこで損保が担わなければならない役割は、万が一の時にも「安心感」を与えることだ。こう考えると、身近なリストラに抗し、産業が社会的信任を獲得し、産業の将来的にあるべき姿を展望しつつ、労働者と経営者が手をとりあっていくことが大事だろう。