ゼミナール レジュメ

計画

第1回 人間発達と労働時間の制限・短縮         9/27開催済み
第2回 すすむ雇用破壊と労働時間の二極分化     11/22開催済み
第3回 ITの労働時間への影響とデジタルストレス
--------アメリカのホワイトカラーの労働実態       1/17開催済み
第4回 にわかに広がるサービス残業の告発・是正   2/28開催済み
        あなたの残業・サービス残業チェックリス
第5回 世界に広がる過労死、過労自殺       4/24開催済み 終講 


ゼミナール・レジュメ
第1回 人間発達と労働時間の制限・短縮
    ――マルクスの労働時間論――

1.「1日労働日」(a working day)という概念

人間の生活――サーカディアン・リズム(概日リズム、日周性)
1日を単位とする生活時間の一部としての労働時間
生活時間=労働関連時間+生活必需時間+家事時間+自由時間
 労働関連時間→労働時間、通勤時間、持ち帰り仕事、仕事の付きあい、研修
 生活必需時間(生理的時間)→睡眠、食事、排泄、入浴、身繕い

ILO第1号条約 1919年、工業・工場1日8間、1週48時間
「週のうち一日またはそれ以上の日の労働時間が八時間より少ない場合、その分を他の日に追加することはできるが、追加は一日一時間を超えてはならない」
日本の労働基準法――1947年制定 1日8時間、週48時間
          1987年改正 週40時間、1日8時間
                変形労働時間性の拡大
  47年労基法・・・・18以上の女性の時間外労働を1日2時間、1週6時間、1年150時間に制限、 97年の均等法「改正」で撤廃


2.資本主義の発達と労働時間の延長

資本主義以前の労働時間の自然的・制度的制限
1)夜の区別による制限――昼働く、夜はほとんど働かない
2)天候や気象による制限
3)慣習的・宗教的制限(祝祭日、忌日)、キリスト教、ユダヤ教における週

産業革命にともなう労働時間の突発的延長
「資本が労働日をその標準的な最大限度まで延長し、次いでこれを超えて12時間という自然日の限界にまで延長するのに数世紀を要したが、そのあとこんどは、18世紀の最後の三分の一期に大工業が誕生して以来、なだれのように強力で無制限な突進が生じた。風習と自然、年齢と性、昼と夜のあらゆ制限が粉砕された」(『資本論』新日本新書版第2分冊、P.480)
機械の導入による労働者の熟練と個人的抵抗力の解体

労働時間延長の限度
肉体的限界→睡眠、食事、入浴などの時間
精神的限界→社交、文化、教養などの時間


3.労働時間の制限のための法定労働時間

労働時間の制限と短縮――人間の発達の場の確保
法定労働時間(使用者が労働者に命じることのできる最長労働時間)の制定
イギリス・1833年工場法
工場監督官制度の導入、工場労働(繊維工場)に適用
年少者と児童の労働を朝5時半から夜8時半の範囲に制限
年少者(13〜18)の最高労働時間を8時間に
9歳未満の雇用を禁止
イギリス・1847年工場法=10時間法
すべての年少者・女性の労働を10時間に制限

法定労働時間→企業の時間と自分の区別
「人間的教養のための、精神的発達のための、社会的諸機能の遂行のための、肉低的および精神的生命力の自由な営みのための時間」(マルクス)

イギリスの工場法とアメリカの南北戦争


4.時間賃金の成立

資本主義以前の賃金
固定賃金・・・・労働時間の長さに関係なく日賃金、週賃金は一定

時間賃金の成立条件
1) 標準労働日の確立による時間内と時間外の区別の成立
2) 時間外労働に対する割増賃金の支払い

日本における時間賃金概念の未成熟
サービス残業、低い割増賃金率

参考文献
森岡孝二『企業中心社会の労働時間』青木書店 1995年
森岡孝二『日本経済の選択』桜井書店 2000年
ジュリエット・B・ショア『働きすぎのアメリカ人』窓社 1993年(共訳)
ジュリエット・B・ショア『浪費するアメリカ人』岩波書店 2000年(監訳)
ジル・A・フレイザー『窒息するオフィス 仕事に強迫されるアメリカ人』岩波書店 2003年(監訳)
共著『日本型企業社会の構造』旬報社 1992年
共著『脱「サービス残業」社会』旬報社 1993年 

ゼミナール「働くルールと企業責任」
第2回 すすむ雇用破壊と労働時間の二極分化

1.労働時間の推移
1999/09/06 ILOニュース アメリカが最長、次が日本 
二つの労働時間
 @ 総務省「労働力調査」 労働者調査 実労働時間 
 A 厚生労働省「毎月勤労統計調査」 企業調査 支払労働時間
  @ −A=サービス残業
労働時間の減少―→パートタイム労働者の増大、超長時間労働者が再び増大

表1 1人あたり年間労働時間の国際比較(ILO)

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

Australia

1869

1858 

1850

1874

1879

1876

1867

1866

Canada

1737

1717

1714

1718

1734

1737

1732

Japan    

2031

1998

1965

1905

1898

1889

United States

1942

1936

1918

1945

1945

1952

1950

1966

New Zealand

1820

1801

1811

1843

1850

1843

1838

France        

1638

1666

1656

Germany  

1610

1590

1604

1583

1579

1562

1559

Ireland  

1728

1708

1688

1672

1660

1648

1656

Norway

1432

1427

1436

1434

1431

1414

1407

1399

Sweden        

1544

1553

1552

Switzerland    

1640

1637

1633

1639

1643

United
Kingdom

1732

1731

Denmark (M)

1644

1620

1669

1660

1688

Netherlands
(M)

1619

1623

1689

1684

1679




2.深刻な若年者の失業問題とフリーター化

 2003年 大卒の就職率は55% (1962年―86.6% 1991年―81.3%) 
 2002年 フリーター比率 高卒38.4% 大卒31.3%  
 19歳以下の新卒入職者に占めるパートタイム労働者の割合
      1991年12.3%―→2001年40.4%
       注)高卒フリーター:進学者(専修学校+大学)・就職者のいずにも属さない人
         大卒フリーター:進路未定で臨時的な収入を目的とする仕事についた人および
                   進学者・就職者のいずれにも属さない人 
 フリーター比率:フリーターと就職者に占めるフリーターの割合)
  2000年労働白書のフリーター定義:15〜34歳で,
  (1)現在就業している者は勤め先の呼称が「アルバイト」又は「パート」である雇用者,男性は継続就業年数が1〜5年未満の者,女性は未婚で仕事を主にしている者,及び
  (2)現在就業をしていない者については家事も通学もしておらず「アルバイト・パート」の仕事を希望する者
   *この定義によるフリーターの人数 1982年―50万人 2002年―202万人

3.高まりつづける女性の非正規雇用比率

 高まるパート・アルバイト比率 1990年15.6%―→2001年26.7%
 女性雇用者中の短時間雇用者 
   1965年―9.6% 1985年―22.0% 1995年―31.6%  2002年―39.7%
 非正規雇用比率 2003年1−3月 男性―15.2% 女性―51.2% 男女計―30.3%
  一般労働者とパートタイム労働者の時給格差(2001年)単位 円、%
    男性        女性
    一般  パート 格差   一般  パート 格差
    2028  1029  50.7  1340 890   66.4
      (出所)厚生労働省『賃金構造基本統計調査』

4.ますます長時間労働者化する正社員

 近年における週60時間以上の労働者の割合の増大
 とくに深刻な大企業男性正社員30代
 従業員規模500人以上の企業の週60時間以上の男性労働者比率
    1994年―14.1%   2002年―21.2% 
 30代男性の4人に1人は週60時間以上 年間1100時間以上
  残業 1日5時間以上 週25時間以上 月100時間以上 年1200時間以上
    NHK「国民生活時間調査」2000年 男性勤め人30代 週平均55時間45分
  (睡眠時間の減少 1970年―7時間51分 2000年―6時間56分)

5.おわりに

 1) 財界の労働力流動化戦略にそった雇用再編
  (日経連『新時代の「日本的経営」』1995年) 
   T.長期蓄積能力活用型グループ
       期間の定めのない雇用契約。昇給あり。退職金・年金あり。
       管理職・総合職・技術部門の基幹職。
       全体の2割程度。
   U.高度専門能力活用型グループ
       有期雇用契約。昇給・退職金・年金なし。専門職(企画・営業・研究開発など)
   V.雇用柔軟型グループ
       有期雇用契約。昇給・退職金・年金なし。一般職、技能部門、販売部門

 2) アメリカ的リストラと雇用解体
  人員削減、賃金引き下げ、諸手当・福利厚生切り下げ、労働時間の増大、休暇の減少
    労働政策審議会「今後の労働条件に係わる制度の在り方」
  「アメリカのホワイトカラー・イグゼンプション等についてさらに実態を調査した上で、今後検討する」(2002/12)

 3)労働時間の制限と短縮の重要性
  残業規制
  サービス残業の根絶 
  ワークシェアリング
  時間に応じた平等原則の確立――男女間、正規・非正規間

ゼミナール「働くルールと企業責任」
第3回 ITの労働時間への影響とデジタルストレス
アメリカのホワイトカラーの労働実態

はじめに

3冊の翻訳
ジュエリット・B・ショア『働きすぎのアメリカ人』窓社1993年
   〃         『浪費するアメリカ人』岩波書店、2000年
ジル・A・フレイザー『窒息するオフィス 仕事に強迫されるアメリカ人』
岩波書店、2003年

1. 労働時間の増大
1970年代〜1980年代の20年間 約160時間(年労働時間)の増加
 女性のフルタイム雇用の増大、共働き
 賃金率の低下を補うための残業とかけ持ち仕事
 相対的に高い職業階層に多い超長時間労働
浪費と働きすぎの悪循環(work and spend cycle)
 個人消費の拡大(消費欲求の高度化)
 長時間労働による高収入の確保(消費のための働きすぎ)
中産階級上層のあいだでの消費主義……消費競争
 ブランド志向、スティタスグッズ
 誇示的消費(顕示的消費) みせびらかし、みえ、虚栄
 Keeping Up with the Joneses ジョーンズ一家(隣)に負けるな
 テレビによって煽られる消費主義、テレビの世界が消費の準拠基準に
近年における絶えざるリストラとジョブ・ディマンドの増大
全労働者の12%、約1500万人……週49〜59時間労働
 全労働者の8.8%、約1100万人……週60時間以上

2.ダウンサイジングとレイオフの進行
絶えざるダウンサイジング……リストラ、レイオフ、人員削減
 レイオフ−−かつては「一時帰休」を意味したが、いまは「解雇」の代名詞
 1980年代―M&A(呼吸と合併)ブーム
 1990年代―株価至上主義の猛烈経営→株式ブームのもとでの人員削減→
 →短期的な利益増→高株価 (人を減らせば株価が上がる)
家族主義的労使関係の崩壊
 社員の賃金と福利厚生(諸手当)は削減される一方
 医療保障や年金制度の改悪。健康保険の削減・非加入者の増大
  健康保険に入っていない正規労働者 約4000万人
休暇の減少−−バカンスの主流は短い週末旅行に、
        近場のホテルや温泉に泊まっての日本的な一泊旅行が増える
 『窒息するオフィス』の事例
 IT産業−−帰宅後、子どもを寝かせ付けて再度出社し深夜まで働く。
 金融業界−−新入社員に対し、着替え一式と歯ブラシを会社に置いておくよう指導。
 高まるジョブ・ディマンド(仕事に対する要求度)→最近はアメリカでも過労死
   Intel社員のサイト「自殺、心臓発作、ストレス死」 
雇用形態の多様化……コンティンジェントワーカー(非正規労働者)の増大
   パート、派遣、契約社員、個人請負(偽装雇用)、 全労働者の4分の1
   CEO(最高経営者)の報酬はますます高額に
    GEのジャック・ウェルチ 1996〜98の3年で1億5000万ドル 約165億円
    シティ・グループのサンディ・ワイル 1998年に1億6700万ドル 約184億円  
    大手企業リーダーの報酬と労働者の平均賃金の比率
     1978年の30倍弱から1995年の115倍以上へ 
株価至上主義経営の帰結――長期的には社員のやる気をなくし、競争力をなくす

3. IT(情報技術)の衝撃
IT化……オフィスの産業革命(機械化、自動化)
  労働を軽減し、労働時間を短くするはずの技術が長時間過密労働の手段に転化
 パソコン、ラップトップ、ケイタイ、ポケベル、インターネット、Eメール
会社の時間と自分の時間の区別がなくなる―→会社の仕事の家族生活への侵入
  仕事がどこまでも追いかけてくる―→会社と取引先・顧客の両方から
  家庭が第二の職場に、空いている時間は仕事に時間に
(出勤途上の車・電車、空港、出張先、休暇先、夜、休日)
  仕事を増やすEメール、年中無休の週7日×24時間オンコール状態 
  オフィスワーク−−すべての入力操作が特別なソフトで監視される  
 「エレクトロニック・スウェット・ショップ」=電子搾取工場
 労働者の職場告発サイトの増加−−インターネットによる抵抗とガス抜き

4. リストラ時代の社員研修と社内広報
 社員研修――バンク・オブ・アメリカ
  ATMのゴミ拾い運動
   現金自動預け払い機周辺の清掃、時間外に自分の時間で手当なしに
   15万8000人中 2800人以上が参加申し入れ 労働裁判所―労基法違反の判断
  各種の動機づけセミナー やる気をなくさせ辞めさせる?ような非人間的な研修
 社内広報――レイオフ・解雇の言い換え
  「リソースのリリース」
  「キャリアチェンジの機会」
  「雇用保障政策の廃止」
  「戦力マネジメント・プログラム」
  「給与支払い名簿からの不本意な分離」

5. 広がるホワイトカラー労働者のあいだの抵抗
 高まる社会不安と地域・家族の危機
 個人的抵抗、携帯をもたない、インターネットで告発  
 ライフスタイルの転換
 一部に労働組合への期待
 企業責任運動、社会的責任投資、株主提案     

ゼミナール「働くルールと企業責任」
第4回 にわかに広がるサービス残業の告発・是正 
 2004/02/28 森岡

1.はじめに
あなたの残業・サービス残業チェック
サービス残業の蔓延
広がるサービス残業の告発・摘発

2.どのくらいサービス残業をしているか−−二つの労働時間統計
 A厚労省「毎月勤労統計調査」(毎勤)  賃金統計
  企業調査……賃金台帳にもとづいて支払労働時間を集計
   所定内労働時間と支払労働時間(所定内+支払残業)を集計  

 B総務庁「労働力調査」(労調)  雇用・失業統計
  労働者調査……早出・居残り・持ち帰り仕事を含めて、実際に就労した時間を集計
 B − A = サービス残業    その大半は違法残業  
 
2002年のデータで試算すると
 @年間実労働時間 2200
 A年間支払労働時間  1825 (B + D)
 B年間所定内労働時間* 1711 (A − D)
 C年間残業時間 489 (@ − B)
 D年間支払残業時間 114 (A − B)
 E年間不払残業時間 375 (C − D)

*所定内労働時間
 全産業平均(規模5人以上)……月142.6(年1711)
 金融・保険(規模500人以上)…月140.2(年1682)
サービス残業・不払総額・雇用創出数の試算 
年間実働時間 2200 42.3×52
年間支払労働時間 1825 152.1×12
年間所定内労働時間 1711 142.6×12
年間残業時間 488  
年間支払残業時間 114 9.5×12
年間不払残業時間 374  
1時間当たり現金給与額 1831 月間所定内給与261046/月間所定内労働時間142.6
1人当たり年間不払賃金 68万4794円 374×1831
常用労働者不払残業総額 27兆3301億2854円 68万4794×3991万人(週35時間以上の労働者数)
サービス残業総時間 149億2634万時間 374時間×3991万人
サ残根絶による総雇用創出数 818万人 サービス残業総時間/年間支払労働時間
(資料)毎月勤労統計調査、労働力調査

<参考>
社会経済生産性本部試算(99/05)ではサービス残業解消による雇用創出効果は約90万人
第一生命経済研究所試算(03/07)では161万人の雇用創出


3.広がるサービス残業の告発・摘発・是正
1) 労働者の告訴・告発
2002年 全国の労基署に寄せられた賃金未払い申告件数は過去最多に
申告件数―2万3356件(前年比8・8%増)、
申し立て額―276億5005万円(同8・5%増)、
労働者数―7万2361人(同8・2%増)。
1人当たりの平均金額―38万2000円

2) 労基署の摘発・是正
02/10〜03/03の6か月――賃金不払残業で72億円を是正支払い
是正企業数403社、対象労働者数63,873人、企業平均1,796万円、労働者平均11万円。
01/04〜03/03までの2年間――153億7,717万円
 是正企業数1,016社、対象労働者数135,195人、企業平均1,514万円、労働者平均11万円
01/04から2年半――253億円

03/05 厚労省「賃金不払残業の解消を図るために構ずべき措置等に関する指針」
   使用者・労働組合が取り組むべき事項
   ・労働時間適正把握基準の遵守
・職場風土の改革
a) 経営トップ自らによる決意表明や社内巡視等による実態の把握
b) 労使合意による賃金不払残業撲滅の宣言
c) 企業内又は労働組合での教育
   ・適正に労働時間の管理を行なうためのシステムの整備
   ・労働時間を適正に把握するための責任体制の明確化とチェック体制の整備

3) 是正の具体例
中部電力――1万1950人に65億2000万円
01/04〜02/12 サービス残業は1人平均146時間(1カ月当たり7時間)、
未払い額は同44万8000円。

近畿大阪銀――2600人5億円
武富士――35億円、2年間、5000人分

4) なぜ、このような変化が起きたか
* リストラ下の労働強化とサービス残業の蔓延
* 長時間労働に対する労働者の反発・怒り 企業忠誠心の減退・喪失?
* 反過労死運動、過労死裁判の影響
* 統合された厚生労働省のなかでの労働行政の自己主張?
* 労働分野の規制緩和・雇用破壊と表裏一体

4.おわりに
問題の根本は恒常化している長時間過密労働
解決の鍵は「人たるに値する生活」を可能にする「労働時間の制限と短縮」


あなたの残業・サービス残業チェックリスト  

(残業=時間外労働、サービス残業=賃金・割増賃金の支払われない時間外労働)

A 平日の1日当たり平均残業時間               

早出

休憩時間中の仕事

法内残業(8時間マイナス所定)

8時間以降の居残り

持ち帰り仕事

時間外の仕事関連通信時間

時間外の仕事関連の会議・研修等

合計

B 1か月当たりの平均休日出勤時間    分 

C 年間未消化有給休暇時間        分(未消化日数×1日の所定時間)

D 年間残業時間

  D=A×240日+B×12日+C=    時間

E 年間サービス残業時間

  E=D−支払い残業時間=    時間 

定家さんの場合(表向き残業なし)の試算

(所定は始業8:00〜終業4:15時の7時間15分)            

早出

15分

休憩時間中の仕事

30分

法内残業(8時間マイナス所定)

45分

8時間以降の居残り

0分

持ち帰り仕事

0分

時間外の仕事関連通信時間

0分

時間外の仕事関連の会議・研修等

0分

合計

90分

1か月当たりの平均休日出勤時間   0分

年間未消化有給休暇時間=11日×7.25時間=80時間)

年間残業時間(1)=90分×240日=360時間

年間残業時間(2)=360時間+未消化年休80時間=440時間

年間サービス残業=360時間  

◇長居さんの場合(毎日4時間残業、所定7時間15分)

年間残業時間(1)=2時間45分×240日=660時間

年間残業時間(2)660時間+休日労働480+未消化有休80時間=1220時間

(休日労働は週1、10時間として、12か月×4回×10時間=480で計算)

残業手当は月25時間(年間300時間)で打ち切りの場合のサービス残業

年間サービス残業(1)660300360時間、

年間サービス残業(2)1220300920時間

残業手当の計算法

(1)週または1日の法定労働時間を超えた場合  超過時間数×1.25  

(2)法定休日に労働した場合          休日労働時間数×1.35  

(3) 22時から翌朝5時の間に深夜労働した場合 深夜業時間数×1.25  

(4) (1)の時間が(3)と重なった場合       当該時間数×1.5  

(5) (2)の時間が(3)と重なった場合       当該時間数×1.6


参考資料: クリックしてください。↓2003年5月23日 読売新聞
             http://www.yomiuri.co.jp/iryou/ansin/an352302.htm

ゼミナール「働くルールと企業責任」
第5回世界に広がる過労死、過労自殺

はじめに

「働きすぎ」の悲鳴が聞こえる
厚労省03/06/23「労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト」
 (中央労働災害防止協会 http://www.jisha.or.jp/frame/index_profile_check.html)
開設と同時に100万件以上のアクセスで回線がダウン
損保、生保の仲間も過労死の犠牲者に(後述)

1 過労死はどのように社会問題になったか

資本主義とともに古い働きすぎによる死
イギリスのケース 
マルクス『資本論』、1866年6月ロンドンのあらゆる新聞
"Death from simple Overwork"
20歳の婦人服製造女工メアリの死、平均16時間半、死亡時は26時間半休みなく労働
日本のケース 
「労働世界」(1901) 20代と50代の男性の死、「過労による結果の衰弱や頓死」
「いまや労働運動は賃金問題でも権利問題でもなく、生命問題である」
農商務省『職工事情』(1903) 繊維産業(紡績、生糸)12時間〜13時間労働、
「1日の労働時間は短きも12、3時間を下ることなく、長きは17、8時間に達するもあり」「一旦年期満了し帰郷するときは、気抜けと工場における過度の労働の結果、多くは病気を引き起こし甚だしきは死に至る者往々これあり」(『職工事情』岩波文庫、上313-15)

現代の労災・職業病としての「過労死」
 労災・職業病専門の医師(社会医学)、細川汀(みぎわ)氏が1969年に最初の事例報告
 最初の使用例:細川・辻村・水野『現代の労災・職業病闘争の課題』労働経済社(1975)
 最初のタイトル使用例:細川・上畑・田尻『過労死』(1982)
1981年 「大阪急性死等労災認定連絡会」が発足
1982年 「大阪過労死問題連絡会」に改称
1983年 パンフレット『過労死110番』出版
1988年 4月 「過労死シンポジウム」開催
4月 大阪で「過労死110番」実施
    6月 「過労死110番」全国ネットワーク開設
    10月 過労死弁護団全国連絡会議第1回総会
    11月 シカゴ・トリビューン 平岡事件を中心に日本の過労死問題を報道
      "Japanese live……and die……for their work"
1990年12月 「大阪過労死を考える家族の会」結成
        過労死弁護団全国連絡会議編『KAROSHI[過労死]』(窓社)出版

2002年1月 オックスフォード英語辞典オンライン版に"karoshi"が入る
   意味 "death brought on by overwork or job-related exhaustion"
 
今日の過労死: 個人の尊重、人間の尊厳が基本的人権として認められる時代、普通に生きれば80歳、90歳と長生き出きる時代の労災・職業病


2 1980年代末の過労死事例から

大阪過労死問題連絡会「過労死アンケート集計書」(1988)から
「朝が早く、夜も遅い。帰宅後も夜中まで電話、休日も出かけていく、やり手の人でした。いつも仕事には夢中でしたが、少し疲れたよと言っていました。大きな原因は睡眠不足とストレスではないかと思います」。
「毎日毎日夜の12時頃までの残業続きで、帰宅は夜中1時。従業員100人余りで残業手当もゼロで、夜食もラーメン位で疲労こんぱいの状態で、『もう限界だ、殺される』と、もらした矢先の死で、残された母娘はショックで暫くは立ち直れない位でした」。
「自家用車で通勤していましたので、車からおりるときに両手に鞄と大きな買い物袋に書類を沢山持ち帰って、夜大きなテーブルに一面に並べて書いていました。私は過重だと思いましたので、週休2日制の今日、日曜日までも持ち帰ってせねばならない仕事があるのかと尋ねますと、……自分だけではない、皆がしていることだからそのようなことは言わないでくれと言いました」。
「主人は会社の机の上にマットを敷いて睡眠をとり、帰宅する時間や出勤時間を睡眠時間にあてた。……出社すれば100%仕事、私は主人の着替えを1週間に2回ぐらいビルに持参し、また、子どもたちのことはそのおりに相談していた。昼食する時間もない様子だった」。

平岡事件 1988年2月23日死亡 28年勤続 48歳
     椿本精工(現ツバキ・ナカシマ)のベアリング工場の作業長
     年間実働3665時間(1年間休まず毎日10時間!!)拘束4038時間
     死亡前51日間 まる1日の休みは1日もなし
残業時間 85年1715時間 86年1650時間
     基本給25万円、残業手当22万円 
青天井の36協定  1日について延長することができる労働時間
 「男子5時間、女子2時間」
 「但し男子の場合は、生産工程の都合、機械の修理、保全等により15時間以内の時間外労働をさせることがある」  

亀井事件 1990年10月20日死亡 エース証券の営業マン 大卒入社3年後
     残業時間の記録なし 残業手当はなく、「営業手当」と「報奨金」
     新入社員研修資料「亀井修二氏の1日」
     朝6:50出社 夜10以降退社 1日電話外交約200件
     87、88年社員「ヤング預かり資産番付表」東の正横綱にランク
     社内報(チラシ) 「亀井君一億円突破」 「亀井君談――1日本社トイレで「中尾副社長から『亀井1億ヤローゼ』と声をかけていただき、それを達成できて、うれしいの一言です。まだまだガンバリます」。
      
要田事件 1988年4月10日死亡 カルビー各務原工場の作業長、34歳
     工学部出身の技術者、15の免許・資格・認定証
     会社業務の必要から5つの講座を受講、QCリーダー、アルミ包装で社長賞
     PAC(Performance Analysis & Control)の推進者
PA: 標準時間に対する作業の達成度
     作業長として労務管理と生産管理を1人で行う、1日 14、5時間労働
    要田氏の作文: しかし、ここでひとつ大きな問題が発生しました。「家庭にだんらんの時間がない」という事です。私は私に与えられた時間を最大限に利用して、会社に、家庭にと努力しているつもりです。しかし、妻には、私と2人の「ボアーとした時間」がもっと必要なのでしょう。「ボアーとした時間」=何もしない時間……。ゆとりがほしいのだと思いますが、私にはその時間がもったいなくて仕方ありません。


3 最近の過労死事例から
    
 03/10/23 突然死した東京海上元社員を認定 東京地裁(毎日)
東京地裁は22日、東京海上火災保険(東京都千代田区)でデータベースの管理・運用部門の責任者をしていた91年に心臓が激しい不整脈を起こす心室細動によって突然死した男性(当時26歳)を過労死と認め、遺族補償金の不支給処分を取り消した。三代川三千代(みよかわみちよ)裁判長は「チームの実質的な責任者として、恒常的に時間外勤務を強いられるなど業務が過重だった」と指摘した。

判決によると、男性は責任者になった91年6月から死亡までの6カ月間、睡眠時間が十分にとれないほど多忙で、死の4週間前には休日に出張し、深夜のトラブルに対応するため未明に出勤することもあった。判決は「チームの半数以上が不慣れなメンバーで、周囲からの支援が期待できず、逆に指導に手がかかるほどだった」と指摘。そのうえで「元々不整脈だった男性の体調が、過重な業務によって悪化して死亡した」と結論づけた。
    
 03/04/15 「長時間労働が原因」妻ら三井生命を損賠提訴(毎日)
00年8月に心筋こうそくで亡くなった三井生命保険(本社・東京都)の営業所長、渡辺一洋さん(当時32歳)の妻洋子さん(32)と長女(2)=大阪市住吉区=が15日、同社に約1億4000万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴した。同社が持病のある一洋さんの健康管理を怠り、長時間労働させたことによる過労死だと主張している。

訴状によると、渡辺さんは香川県の丸亀営業所で16人の営業職員のまとめ役だった。高血圧や心室肥大の持病があるのに十分な休みが取れず、死亡直前1週間の残業は推定で約59時間、1カ月では204時間に上った。また、会議では生後間もない長女を引き合いに出され、「未達(ノルマ未達成)の子と呼ばれないよう頑張れ」などと精神的重圧をかけられた。洋子さんは「生後55日で父を亡くした娘に死の理由をきちんと説明したいと思い、提訴した」と話している。 【山本直】

 03/11/23 職場の3割うつ病…「残業・過労死110番」電話やまず(赤旗)
「1日16時間働いているのに残業代も出ない」。22日、9都道府県で実施した「残業・過労死110番」には、サービス残業で過労死や過労自殺寸前まで働かされている深刻な相談が相次ぎました。日本労働弁護団と過労死弁護団全国連絡会議が初めて共催しました。

深刻な相談が相次いだ「残業・過労死110番」=22日、千代田区   
◇毎日4、5時間の残業。ほとんど休暇が取れない状況で、38度の熱があっても出社しなければならない。残業代はなしで、逆に賃金が10%もカットされた(サービス業、東京)

◇毎日の労働時間は15時間〜16時間。帰宅は午前0時か1時ごろ。北海道や大阪の出張でも日帰り。しかも残業代はなし(語学スクール、27歳男性)

◇朝7時半から毎日会議があり、夜11時か午前0時に帰宅する毎日。週休2日だが土曜日は休めず、有給休暇は使えない。残業代もない(大手商工ローン、30代男性)

◇5日に一度の昼夜勤シフトで、午前8時半から翌日午後5時15分まで連続40時間の不眠不休の仕事になる。負担が重く、何とか是正してほしい(冠婚葬祭業)

相談件数は304件。うち「残業」が247件、「過労死・労災」が57件。相談内容では長時間・過重労働に関するものが142件と半数を占めました。

03/06/10 <過労死>過去最多の160人を認定 厚労省の02年度まとめ(毎日)
過労による脳・心疾患で02年度に労働基準監督署が労災認定したケースが前年度の約2.2倍、過去最多の317人(死亡160人)に上ったことが10日、厚生労働省のまとめで分かった。同省が労災認定基準を緩和したことで、リストラなどによる労働強化の実態が顕在化したとみられる。過労による自殺など精神障害の労災も、認定基準が同じだった前年度から43%増えて100人に達した。

精神障害を除く昨年度の認定請求は、前年度の690人(認定は143人)より129人多い819人。認定された317人のうち、脳疾患は202人(死亡62人)、心疾患115人(死亡98人)で、87年に統計を取り始めてからいずれも最多となった。

世代別では50〜59歳が最も多い128人、次いで40〜49歳が90人。これまで1けただった29歳以下も19人が認定された。職種別では、管理職が最多の71人、次いで運転手など運輸・通信が62人。事務職は前年度の18人から57人に増えた。販売職も4倍の20人に急増し、労災が各職種、世代に広がっていることが明らかになった。


4 世界に広がる過労死・過労自殺

イギリス
労災職業病専門誌の『ハザーズ』2003年夏季号
"Drop dead"というタイトルのもとにkaroshi特集
<21世紀の主要な職業病はkaroshi、心臓麻痺、自殺、脳梗塞>

「昨年(2002年)出版されたイギリス政府の調査によれば、労働時間が極端に長い人びとが急激に増加し、数百万人のイギリス労働者が過労死ライン(karoshi zone)に入りつつある」。
「通商産業省の調査によれば、対象となった労働者の16%−−6人に1人−−は週に60時間以上働いていた」。「通商産業省の調査が明らかにしているところでは、男性の5人に1人(19%)はストレスのために医者に通っている」。

  「医師のシド・ワトキンズは、『クレージー』な労働時間に体がもたなくなって死亡した。ストレスで疲れ切った教師のパメラ・レルフは自殺した。メンタル・ヘルス看護士のリチャード・ポコックや、郵便労働者のジャメイン・リーも同様である。これらの人びとは全員、仕事があまりに耐え難かったために死んだのである」。

イギリスにおける過労死の社会問題化→イギリス社会の「日本化」

アメリカ
 『ニュー・インターナショナリスト』誌2002年3月号には、
マシュウ・ライス"American karoshi"を寄稿
 2001年9月11日に、ワールドトレードセンターのツインタワーの北棟から命辛々抜け出した投資会社の女性の話、「最初の旅客機が激突した後、そのビルの88階から駆け下りている間に、場内放送で従業員は仕事に戻るようにというアナウンスを聞いた」。
「仕事に対するアメリカの強迫観念は伝染病の域に達している」(ブライアン・E・ロビンソン『仕事に縛られて』)

「この国の法律は、企業や雇用主が人的資源を競走馬のように扱うことに事実上の免責特権を与えている」(マシュウ・ライス)
アメリカの全労働者の12%、約1500万人は週に49時間から59時間働いている。全労働者の8.8%、約1100万人は週60時間以上働いている。

インテルに勤める2人の小学生のシングル・ファーザー
子どもに朝食を食べさせて7時頃には出勤し、いったん5時に帰り、夕食後子どもたちを寝かせるとオフィスに戻って夜中の1時頃まで働く。
金融業界のある企業
新入社員に家に帰って寝ることができない場合にそなえて、着替え一式と歯ブラシを職場に置いておくよう指導

過労死・過労自殺の原因と背景
 @ 恒常的な長時間残業 超長時間労働
 A リストラによる人員削減−−高密度過重労働
 B 非正規雇用増(パート、アルバイト、派遣、契約社員、請負)による正社員の負担増
 C 能力主義、成果主義によるジョブ・ディマンドの増大
 D ジョブ・ストレスの増大−−リストラ、IT化、失業の不安、解雇の恐怖
E アジア(韓国、台湾、中国)の長時間労働とグローバルな働きすぎ競争  
F 労働者相互の絆の消失(同僚、仲間人を思いやるゆとりがなくなる)

おわりに

解雇規制、解雇要件の厳格化
 労働時間規制、サービス残業の根絶
 男女平等(雇用平等、共同参画)の推進
 パート・アルバイトの時給の引き上げ(時間に応じた平等)
国際労働基準の遵守
2003年8月現在で185条約のうちの批准しているのは46本、全体の4分の1
 ILO第1号条約 工業・工場1日8時間
 132号条約 最低年3週以上の休暇、うち最低2週は連続休暇
 どちらも未批准

人間らしい労働と生活の確立 「労働運動は生命問題」