しんぶん赤旗日曜版 2003.7.20


損保会社 新種のサービス残業
 エッ、夜のオフィス街にホタル?
 損害保険会社の職場で今話題になっている“ホタル族”。
 夜になると出現するこの“ホタル族”って一体何?  岡 清彦 記者

自前で電気スタンド、懐中電灯、小型扇風機 用意し

 大阪のビジネス街、御堂筋に面した大手損保の近畿・関西本部ビル。午後9時、1−7階の窓がいっせいに暗くなりました。同社が、強制的に天井の電気のスイッチを切るからです。ところが、よく見ると、ある部屋では小さな明かりが点灯し、薄暗いなかでうごく人影・・・。別の部屋の天井は薄明るく光っています。
 「光っているのはパソコン画面の明かり。それだけでは暗いので電気スタンドも取り出します」と30代の営業のAさん。
 フロア全体は暗いのに何人かが残って仕事をしており、暗ヤミのなかで机のところだけがホタルのように光っている−−
“ホタル族”の正体は、サービス残業でした。
 本部ビルに打ち合わせに来てこの光景を目にした40代のBさんは、語ります。
 「照明が消え真っ暗になってもだれも帰らず、みんなが机の下から電気スタンドを取り出す。パソコンの画面の明かりに人間の顔がボーと浮かんでいる・・・。不気味だった」
 いっせい消灯後、“ホタル族”を支える“三種の神器”が電気スタンドに懐中電灯、小型扇風機。懐中電灯は、物をさがしたり、足元を照らすときに使い、扇風機は冷房が切られるために使用します。自前で購入することがほとんどといいます。
 同社の勤務時間は、午前9時から午後5時。前出、営業のAさんは、午前8時に出勤し、帰りは午後11時、午前零時です。睡眠時間は毎日、5時間程度。顧客のために休日の土、日曜日もすべて出勤。今年になって、「正月休みをのぞき、休みは就きに一日ほど。」年間総労働時間は過労死ラインの3000時間をオーバーし、4000時間をはるかに超えます。
 「営業ですから成果をあげてなんぼですわ。精神的プレッシャーはきつい。体が丈夫ですからもっていますが、あと10年もつかな」

セブン・イレブン勤務

 なぜ会社は、午後9時にいっせい消灯をするのか?事務系のCさんは「外向けのポーズですよ」と、こう告発します。
 「長時間労働やサービス残業について世論の批判が強まっているし、厚生労働省の勧告・指導もあるからです。実際は、仕事の目標、ノルマが過大すぎるし、成果主義賃金のために消灯後も働かざるをえない」
 郊外の出先の店舗は、雑居ビルなどのために、いっせい消灯はありませんが、“セブン・イレブン”勤務と呼ばれる超長時間労働者がいます。午前7時に出社し、午後11時ごろに退社するからです。その一人、Bさんはいいます。
 「夜中の2時過ぎに寝ますが、5時半に起きないと、午前7時に出社できない。睡眠? 3時間しか眠れないのがつづきました」
 一年前と比べ「2倍以上の仕事をしている」と語ります。「土、日曜日は、ぶっ倒れていました。一日中うとうと・・・。職場で飲みにいくと、『いつまでもつか』『転職したい』という話がでる」
 今、少しでも早く帰ろうと午前6時40分には会社の机に向かっているといいます。
 「こんなに働いても、年俸制の評価は5段階評価に換算して下から2番目にすぎないですよ」

 安田火災、日産火災、大成火災が合併して誕生した損保ジャパン、東京会場と日動火災がミレアグループを結成、三井海上と住友海上が三井住友海上へ合併・・・。損保産業ではこの数年、産業再編で、利潤競争は激化する一方です。労働者には、保険料の獲得金額などの猛烈な競争を強いています。

 損保ジャパンのある営業マンは、「保険料の獲得目標が合併前の2億5千万円から5億円へと倍になった。昼食を食う時間もないから、コンビニでおにぎりを買い、自動車を運転しながらかじることも」。
 合併前は、朝9時に出勤し、夕方の6−7時ごろに退社していましたが、いまは、朝8時に出勤、午後10時前に帰ったことがないといいます。毎日6時間、月120時間もの残業です。年俸制の賃金に40時間分の残業時間がふくまれているといいますが、残りの80時間がサービス残業になるといいます。

職場に働くルールを  革新懇

 サービス残業は、労働基準法違反です。東京労働局はある大手損保会社へ勧告・指導し、2001年1月から02年6月までの間に違反があったとして3億1千万円(6865人分)を支払わせています。
 東京海上は、形のうえではサービス残業をなくすとして「電気スタンドの持ち込みは厳禁」と内部通達を出しました。

 職場に働くルールをつくろう、などと活動している大阪損保革新懇は、6月11日に125人が参加して学習集会を開催。
 「職場の仲間は、連休のさなかの5月3日午後11時53分に、また日曜日から泊り込んで月曜日の午前1時39分という深夜に仕事のメールを発信しています。仲間を励まし、サービス残業根絶へ向け奮闘したい」(日本興亜)、
 「残業という概念を捨てて働けという会社。働いてよかったといえる職場を目指し力をあわせたい」(損保ジャパン)
などの発言がつづきました。