ブックレット『どうするどうなる 損保の未来』第二部所収

ー損害調査の仲間が語り合うー

 座談会『より良い損害調査サービス提供めざす』

司会 中村正行 六社10名損害調査社員



「求められる損害調査サービス」とは


司会 「品川講演」で『損保産業は社会のブレーキ役』と述べられましたが、私たち損害 調査社員はこの「ブレーキ役」の仕事をしている訳です。言い換えますと損害産業にとって、契約者から見ても、社会全体から見ても、他の産業と違う損害産業らしさは事故の起こった後のサービス、すなわち損害調査サービスではないでしょうか。今日は、その仕事に実際携わっている皆さんに集まってもらい、契約者・社会・国民から求められている損害調査サービスはいったい何か、今それを提供できているのかといったところを話し合おうと思います。

A いま、損保各社は迅速支払いをうたい、支払所要日数の競争をしていますが、早く支 払いすることが、本当に社会に役立っているのか、前から疑問に思っていました。

B 実際のところ、自動車修理業者など一部の人たちは大変喜んでいるようですが、特に 契約者に何かメリットがあるかといえば何もないのでは。自動車修理業者などでは、修理完成、納車する前に保険振り込みを受けていることもあります。

C その結果、適正でない支払い、不当利得も起こっているようです。例えば、部品取り 替えの条件で協定し、振り込みされているのに、交換せずに補修して納車する。結果、その部品代相当が差益として支払いされるといった具合です。以前でしたらそんな場合は修理途中で再立ち会いして、部品業者からの納品書も取得して、そして完成納車してから支払われるのが当たり前でした。要員の削減と支払い督促競争の中で要因の変わってきたところですね。

D 私は損害調査のなかではちょっと変わった海損の職場です。船舶保険の支払いではい ま話し出たような不当利得を発生させないように、復旧条件付き支払いが行われています。実際に工事を行っている過程を写真に撮り、海事鑑定人がそれを確認してはじめて支払いされます。

E 契約獲得競争の宣伝の一つに支払所要日数が取り上げられ、その結果、社会的にマイ ナスの現実が出ているといえますね。

F 支払所要日数を圧縮するためと経費を削減するために、今はほとんどの損保会社が、 交通事故証明書の申請・取り付けをやめていますが、これなども本当に被保険自動車が起こした事故か否か、年齢条件違反や運転者のすり替えなどがないかどうかといったことを検証することさえできないものです。支払い競争のなかで、有無責調査や不正の排除といった、いわば損害保険の社会的信用性の根本さえ、軽々しく扱われるようになったと思います。



 損保産業の心意気


司会 損害保険は損害を補填し、経済的な円滑な社会を保証するのが社会的任務です。で すから、損害を正しく把握するのは基本的な仕事です。そこで不正を許さず、知識や経験のない相対的弱者にも正当に支払いするという、いわば「強きに強く、弱きにやさしい」立場であってこそ、社会的にも信頼されるものだと思います。この正義感こそ、損保産業の心意気と言ってもいいのではないでしょうか。

F そのことに関していえば、以前、対人賠償事故での自賠責内解決率が社内キャンペー ンの項目にあり、なんと80%位を自賠責内支払いで解決したサービスセンターがあり、 被害者救済や公正支払の観点から疑問の声があがったことがありました。契約者からも 被害者からも、何のための任意保険かとの批判を受けることになると思います。

B そういう疑問や批判もあり、もうそのキャンペーン項目はなくなったと聞きましたが。C なくなりました。それも、現場のみんなが声を上げ続けたからです。そういう意味で は、現場で生の契約者・加害者・被害者といった人たちの声を聞いている労働者自身が、 目先の仕事に追われるだけでなく、問題意識を持ち、そのことを声を上げていくことで、 この産業のあり方を少しでも正していけるということでしょう。



 変わる女子社員の役割


E 問題意識ということでいえば、ひとつは男子社員が従来してきた仕事の女子社員への 「性転換」の問題があります。具体的には、対人賠償保険担当者と火災・新種保険の火災・賠償責任担当者の仕事です。

A 私は火災・新種サービスセンターに所属していますが、女性は傷害や携行品・用品損 害など定型的な仕事を担当しているのですが、男性の火災や賠償責任の担当というのは、 罹災現場に出向いたり、被保険者を訪ねて調査や協定をしたりといった社屋外の仕事が重要となります。実は、先日もどうも放火らしいと思われる火災の現場に行ったのですが、焼け跡を見て回り、燃え残った「商品」といわれるものを確認したりしましたが、髪や服も焦げ臭くなり、肉体的にも精神的にも入社2年目の若い男の私でさえ、かなりきつかったです。とても女性向けの仕事ではないと思います。ただ、女性も男性と同じ能力や可能性を持っているわけですし、男性と同じ処遇や展望を保証されるべきでしょうから、女性に「この仕事をやってはいけない」と頭から決めつけていいのかどうかは、私には少し難しい問題です。

G しかし女性が社屋外で被害者やその代理人と会うということを考えれば、いわゆる  「身の危険」という点で問題があると思いますよ。

E それと併せて、日本社会の後進性ともいえる女性差別の問題があります。男性と同じ かそれ以上の知識や能力がありながら、女性というだけでまともに交渉にも応じてもらえない、話も聞いてくれないという問題もあります。

G 私も女性なので、「男に代われ」とか言われることがあり、頭に来ます。

C でも、会社が男性から女性への転換に積極的でないのが一番問題だと思います。女性 の能力や可能性を伸ばし、女性の未来を拓くために必要だと思うのですが、どうもコスト=人件費削減が先にあるようです。女性の低い賃金が引き金です。それを是正することも必要です。社会や国民が私たちの損保産業に求めているのは、事故や災害にあってしまった後の専門的で、きめ細かい、そして公正な対応ではないかと思います。その中で女性の皆さんが果たしている役割は大きいものがあると思います。



 喜ばれる仕事をめざす


H 私は自動車サービスセンターで傷害保険を中心に担当していますが、お客様から一番 感謝されたことは、事故が起こってどうしていいかわからないお客様に、いろいろと相談に応じて差し上げ、きめ細かい親切な対応やアドバイスをさせてもらった時です。決して、早くお支払いできたときでも、多くお支払いしたときでもありません。「声なき被害者」にこちらから連絡して、直接支払いや事故処理に関係ないようなことまでも含めて、「いろいろ聞いてもらってありがとう。教えてもらってありがとう」と言ってもらった時です。そういう仕事ができるためには、やはりゆとりを持った仕事量であることが必要です。私はそうした喜ばれる仕事をめざして頑張っていきたいと思います。

司会 冒頭に言ったような「社会のブレーキ役」座談会には行きませんでしたが、「求められる損害調査サービス」のありかたにふさわしい話が互いにできたと思います。ゆとりを持ってきめ細かい対応をする。またその結果が適正で、迅速につながると思います。私たちも決して遅く支払いしていいとは思っていません。一日でも早く不幸な事故を解決していきたいと思っています。そのためには、志の高い損害調査サービスのプロである労働者を必要なだけ配員しなければなりません。それこそが損害保険産業が契約者からも、社会からも求められることに応じられる道だと思います。

 どんな産業に働いている人たちも、その産業が社会に提供した商品やサービスを誇りに して働いている筈です。

 私たち損害保険産業が社会に提供している商品とサービスは、事故や罹災に遭ったとき の損害調査サービスそのものです。そのことを誇りにして、契約者や社会の期待に応じられる損害保険産業を造っていきたいものです。それが、「品川講演」にあった社会に付加率、言い換えれば付加価値を認められる産業になっていくのだと思います。

 みなさん、今日はありがとうございました。