ブックレット『どうなるどうする 損保の未来』第二部所収

ー岸和田の仲間が語り合うー

『いま、“岸和田”地域営業の現場はどうなっているか』

司会 三浦博 営業社員4名 損調社員1名 代理店1店



 岸和田の損保事情について


司会 今日は「品川講演」を聞かれたり、講演録を読んでいただいた方々にお集まり頂き、「品川講演」で提起のあった「代理店制度を守る」について地域営業の現状の状況や問題 点について自由に語り合っていただきたいと思います。はじめに当地の経験が永いAさんから岸和田を総論的に紹介して頂けませんか。

A ご存じの通り、岸和田は最近はテレビでダンジリ祭りで有名です。大阪と和歌山の中 間にあってかつては紡績・タオル・毛布・ニットなど繊維産業王国でした。繊維産業がダメになりましたが、私がここに転勤してきた9年前は関西空港がらみバブルの最盛期でした。とりわけ、阪和道・空港道の土地買収、漁業補償でお金がばらまかれ、りんくうタウン・コスモポリスなどのベイエリア開発ブームで沸いていました。

金融機関も地銀本店があり市銀・地銀・第2地銀・生保・証券もほぼ全社進出し、損保もほぼ全社が支社を出し、大手では泉佐野へも進出し始めていました。

損保市場としては旺盛な空港関係事業・大衆分野での折からの土地ブームで住宅・マンション建設・自動車もウハウハ。その上一時払い大口積立保険の「金城湯池」でしたから各社とも高増収で、常にキャンペーンでも上位入賞していました。

ところが現在はバブルがはじけて状況は一変。他の金融機関の多くは撤退・規模縮小、損保でも幾つかのところで統廃合とともに効率化のため代理店の選別も始まっています。代理店協会も泉州支部が泉南とかに別れていましたが、解散するとか。10年前、拡大競争の象徴的存在だった岸和田が、いま統廃合の焦点になりつつあるという現実に直面しています。私も火災保険料3500万のN織布を担当していましたが、5年前に倒産、大きな痛手でした。私はずっとここで盛衰を見てきました。いま、本当に厳しい岸和田です。


司会 損調の状況はどうですか。

B いま、Aさんから出たように大手では以前からSCがありましたが、バブル前後には 大手・中堅全社のSC組織ができたと思います。この地域は各社とも数字は挙がるが、ロスはよくないという構造でした。各社とも対策・出口対策に頭を悩ませていました。入口では高ロスの「新規・フラット・全年齢」契約をどう規制・排除するかが地域の話題でした。「心不全」とひっかけた「シン(新)フ(フ)ゼン(全)」という流行語が流行りました。とりわけ、各社の損調社員が苦労したのは(暴)絡みの事故故処理でした。「和泉3ナンバー・外車」で加害者・被害者が黒メガネ・パンチパーマには皆泣かされました。各社必死のロス対策の中で情報交換が進みはじめ、警察と連携した暴対協も効果をあげはじめ、かつてのような苦労は少なくなってきたと思います。しかし最近、景気の反映か、(暴)関係の要注意案件が出始めていますので、各社で連絡を取り合っています。損調部門では営業の激しい競争とは少し異なって、情報交換を通じて比較的「各社仲良し」と言っていいでしょう。



司会 最近の営業現場での特徴を聞かせてください。


「非効率代理店は切れ」


C ここ1〜2年、代理店大型化、逆に言えば「小さいところは切っていく」政策が進められている。最大大手社は3千万、大手社でも2千万とか1千万の線が引かれ、「それ以下のところは、残っても手数料は少なくなるぞ」と脅されている。手数料問題を深刻に考えている代理店が多いが、文句・意見をいう相手がいないし、届かないし、不満が強い。

D うちは3百万だ。会社は「実験的だ」と言っているが、収保が億台のOB代理店を会 社に張りつけて、営業担当者の代わりをさせている。将来、小さい代理店はそこに吸収合併していくつもりだろう。 

A 自分のところだけで線引きするのならともかく、同じ方法で乗合攻勢をかけてきてい る。うちは管内に5店ほど大型の専業代理店があるが、大手から「一社で大丈夫ですか、おたくは合併されますよ」脅してくる。

E うちも一緒だ。うちなんか専業は本当に少ないのだが、「大丈夫ですか。小さいところは会社自体がどうなるか」と言われている。小代理店の切り捨て問題だが、うちの会社の方針は違う。「切られる代理店を取ってこい、探してこい」という政策だ。私自身、去年10月から12月の3ヶ月間に「300代理店を訪問してこい」と命令された。つまり他社の看板のかかっている代理店に飛び込め、案外ひっかかるところがあるかもしれないという狙いだ。殆ど門前払いだったが、中には話に乗ってくれたところもあった。だが、話は会社への不満・苦情ばかり。こんな狙いで乗り合いなんて無理だ。

D 社員だって損保から生保へ行ったり、生保から自動車に行ったり。最大大手生保と提 携した会社の社員は週2回生保に行き、そこで指示を受けて帰ってくる。生保の仕事が7割だと言っていた。



店舗再編・人減らし・強まる督励


A 店舗統合の話もいろいろ聞くね。各社とも泉州・南大阪地区の営業再編をやるみたい だ。岸和田・堺の比較的大支社に周辺の既進出の中小支社を合体していくような。

C うちは2支社を合併し、2名減らすといわれている。

B 最近、大手社の同期の人と会ったら、2〜3支社を合体するが、支社長は一人で他の元支社長は新社長のもとで「専門課長」や「専任課長」になる。3人はそれぞれ元の支社「派」を作るから合体しても人の「和」はバラバラになると言っていた。損調でも統合の動きがある。大阪周辺のセンターを母店に集中しようとしている。「サービス」「サービス」と言いながら、「サービス」の後退だ。

D 例えば、泉佐野が岸和田に統合されると泉佐野の代理店は日常業務・相談などコミュ ニケーションが取りにくくなるという苦情や不満になる。

A 苦情や不満をいう小さな代理店はいらないという訳だ。

B もう一つある。「会社の責任で統合しました。あとはすべて営業社員が面倒みます。 すべて営業社員の責任です」という方法だ。

D ますます営業社員はシンドクなるな。

E 督励も厳しくなってきている。うちは本部長名で発行しているニュースがある。忙し くって読んでいる暇はないのだが、しょっちゅう「読んだか」と聞いてくる。いい話が載 っているのなら聞いてこなくとも読むちゅうねん。この間も「ここのディラーを落とした」「あそこのディラーを落とした」ことが詳しく書いてある。部長・支社長・営業担当者のそれぞれの役割が書いてあって、日常プライベート面でもしっかり押さえろと個人責任を強調し、個人の私生活、土日を捨てろとも。「読んだか」と聞いてくる話か。

A ある大手ディラーは向こうが勝手に損保を査定してくる。各社の増収率・リストラ率・車販協力などから一方的に拠点を決めてくる。どうしょうもない。

E それがニュースに書かれる。

A うちの経営者は休日の扱いの変更提案をしてきた。土日はドンドン出勤して代休は今 まで翌週だったが、4週以内に変更。創立記念日・冬時間の廃止など多彩なメニューだ。 要するに「24時間営業」の狙いです。早期退職勧奨制度も労使協議ではなく、一方的に流してくる。50歳を頂点に年収の3倍をプラスするという。辞めるあてのある人はいいが、悲劇は明らかだと思う。わたしの友人で辞めていった人もあるが、3つ目がパチンコ屋のマスターだったがその後は行方不明になってしまったな。


司会 代理店Fさん、お待たせしました。


代理店Fさんは語る


F いやぁー、もう私なんか入る余地はありません。代理店も厳しいですが社員も大変な ことが良くわかりました。せっかくの機会ですから、日頃思っていることを少し話させてください。

最初に話の出た代理店手数料の問題は零細代理店にとって深刻な死活問題につながります。いくらボリュームが少なく、伸び率が良くなくとも、永年にわたって契約をいただいてきたお客さんを持っています。事故があれば真っ先に駆け付け、相談のってきたのに「もう、いらん」とか「手数料をとり過ぎだ」はないでしょう。これでは会社から客離れをすることになるのではないですか。

今まで最大手社の母店には代理店席があり、事故相談や情報交換をしていましたが、家でパソコンでやれという訳です。パソコンを入れるほどの契約はないのです。それからチューリッヒだのアメリカンホームなどがやっている派手な宣伝を止めさせてください。1万か、2万位安くなるかも知れませんが、代理店・営業社員・損調サービス社員は全く見えない。派手に宣伝しておいて、本当に事故が起きた時、われわれがやっているようなことをしてくれるのですか。 早く本国に帰ってほしいです。

お客さんの財布も本当に厳しくなってきました。自動車の任意保険を進めたのに断った客が事故を起こし、自賠責で払ってもらえないかという相談がありました。無理だと分かっている人ですよ。口座振替から落とせない人も増えていると良く聞きます。大衆保険を支えている契約者もこんな状況であることを知ってほしいと思います。


司会 Aさん、終わりにあたって少しまとめて頂けませんか。


A Fさんの話を聞いて、ハットしました。私も厳しいことのみが頭にありました。考えてみるとこの岸和田には社員・アジャスター・異種雇用含めると全社で300名近いでしょう。代理店は恐らく泉州で3000店はあるでしょう。この人たちでこの地域の安心と安全を担っているのだということを改めて思い直したいと思います。


司会 いい結論と決意が表明されました。皆さん、ありがとうございました。