ブックレット『どうなるどうする 損保の未来』第二部所収

提言『大阪における「料率競争」=「価格破壊」の現状を訴え、
         業界の適切な対処を求めます』

大阪損保革新懇 価格破壊研究チーム

 はじめに

 品川講演は「価格・料率」破壊の現状に厳しい警鐘を鳴らされました。大阪損保革新懇世話人会では相談の結果、日常業務でこの分野を直接担当している私たちがこの提言をさらに掘り下げ、リポートにまとめようということになりました。私たちは年明け以降、短い期間でしたが実際に体験した数例を含め、この小報告書をまとめることができました。「品川講演」をフォローする内容になっていると確信します。私たちは、損保業界挙げてこの問題の対策・是正が進められるよう、ここ大阪から声をあげるものであります。

一、2000年の幕開け。2000年問題で大晦日・元旦に勤務、コンピューター誤作動確認を終え、1月5日仕事始め。例年であれば、大口契約者・代理店に新年挨拶のあと職場で新年の一献を交わす日です。新年早々、二つの難題が待っていました。それらは、

〇「他社から30%の割引が提案されている。貴社もさらに安い保険料の割引がなければ、 提案社に契約を移す」との申し渡しです。セキュリティ割引です。当該警備会社の機械警備を実施している場合、30%割引をするというもので、昨年、契約更改時に自由化対策として適切に割引いた料率を提案したにもかかわらず、さらに30%の割引き要求です。

〇新築ビル建設中の顧客企業から「警備会社から機械警備をすれば、火災保険料は30% 引きになると持ち込まれている。貴社も同様の割引ができるか」「出来なければ、契約を移す」という相談です。

 この2件は他業種の損保進出後、急激にもたらされている価格破壊の一つの実像です。それだけではありません。昨年末にもこんなケースがありました。

〇ビルをいくつも所有する業者へ生保系、外資系の会社からダイレクトメールによる割引 き企画書が送付されてきました。その業者からは保険料の見直しを迫られ、今までは規 定どおりの保険料だったにもかかわらず、「今まで高い保険料を払わされていたのでは ないか」と不信感を持たれ、過去の保険料の説明を求められました。いくら説明しても 不信感を払拭してもらえず、やむをえず割引き料率を提示、それで決着しました。

〇ある代理店がその代理店が居住するチェーン店数店の契約を貰っていましたが、親会社 が一括にまとめ、他社に付保したために既契約は飛んでしまいました。契約を一本にす ることによる割引きのためです。その代理店の手数料収入の大きな割合を占めていまし たが、大幅な減少となり、店主は嘆いていますが、慰めようがありません。

〇私立の学校契約で、更改にあたり従来通り満期案内と見積書を提案し、担当者の了解を 得ていました。更改直前に他社からより安い見積書が提案されたので、今回からは更改 しない旨一方的に通告されました。後に、金融機関代理店による特約の自由化に伴う風 災の危険に対し、保険金限度額を設ける特約によるものだと知らされました。

これらは、ほんの一例にすぎません。

 自由化以降、営業社員は料率引下げ合戦に巻き込まれています。

契約者はマスコミの宣伝で自由化=割引と理解している面が強くあります。自由化にあたり、料率の見。直しが行われ、地域・職種によっては料率が上がったものも存在するにもかかわらず、割引が当たりまえとの認識が強くなっています。

 今まで一回で済んだ見積りも何度も何度ども書き直し、提出を求められます。また、短時間に提供が求められることも多く、長時間残業・休日勤務も日常茶飯事となっています。

 こうして一生懸命出した見積りの結果、やっと契約更改となっても数字としてはマイナスであり、今度は予算不足だと叱責される訳です。代理店手数料も減少し、代理店との関係も円滑さを欠いていくことになのます。

二、1998年7月1日、損害保険分野の保険料自由化以降、火災保険における価格破壊は企業分野を中心に凄まじいものとなっています。企業物件では30%引きが当たり前の状況になっています。

その引金になっているのが、自由化以降、企業分野では当たり前になっている「競争入札(ビット)」です。これは各損害保険会社に現在の火災保険の契約内容をオープンにして、それぞれ各社に見積りを提出させ、最も安価な保険料提案会社と契約する方法です。

〇ある製造工場では、従来の保険会社、乗合会社の他、生命保険系の保険会社に保険料の 見積りを提出させました。生命保険系会社は従来、5000万だった保険料を3000万に引下げ提案。結局は従来の保険会社が幹事を守りましたが、生命保険系はシェァー インに成功、次は「シェァーアップ、幹事だ」と広言しています。

〇ある電鉄会社契約でも、同じようにビットによって30%近くの割引を余儀なくされ、 さらに子会社、関連会社についても親会社と同様の割引を求めてきています。

  周知の通り、今回の自由化は料率の自由化と特約の自由化があります。従来は、認可を受けた商品を一律の料率と同じ特約が義務付けられていました。自由化により特約の自由化となり、今まで一律であった補償内容が一部不担保の特約が可能となったのです。

  この結果、保険料安売り合戦の中で、契約者に不担保特約(例えば、風災不担保、水災不担保など)を説明せずに安い保険料を提案することも出てきています。今までの契約であれば、保険金の支払い対象だったのが、支払いが出来なくなり、契約者とのトラブル発生の懸念が生じます。

三、わが国の保険会社は1948年以来、カルテル料率で各社横並びできました。今回、その保険料が一気に自由化になったのです。「カルテル」料率といえども、厳正な料率検証の結果、決定・確認された「横並び」料率であり、各社は「遵守」してきたのです。

 その故に、わが国保険会社は50年にわたり、「競争入札」は産業的に未経験分野でした。しかし今回、料率の自由化とともに持ち込まれた「競争入札」は、適正料率で競うということから逸脱し、契約獲得のための際限のない保険料引き下げ競争の道具となっています。

言うまでもなく、保険は他の商品とは異なり、事故が発生して初めて保険金支払い義務が生じます。契約の際にはコストはあまりかからず、分からないが、コストは事故の発生、保険金の支払いに伴って確定するという特性を持っているのです。このようにコストが後から発生するため、契約を取ることを最優先に考えれば、限りなくダンピング合戦となる可能性を大きく含んでいる訳です。

 さきに述べたように、損害保険料率は過去の事故率を正確に把握・調査し、算出されたものです。火災保険でいえば地域別・構造別・職種別などの損害率によって算出されてきました。これは他産業が真似ができない、追随できない損保産業独自・独特の財産と自負してしかるべきものです。しかし、現在繰り広げられているダンピング合戦はこの財産を放棄し、損害保険経営の健全性を失い、市場破壊をもたらせ、その結果消費者の利益に反する可能性が大きいと言わねばなりません。私たちもそれを懸念します。

 品川氏は今年のインシュアランス新年号において、「品川講演」から思考をさらに発展させられ、この問題を「新しい損保産業構築の座標軸」の一つと位置付け、再論されています。また、同誌において平野損害保険協会長は「危惧される行き過ぎた料率競争」として「絶対避けなければならない」とも発言されています。

 私たちは、損保業界の健全な発展と国民・契約者の安全と安心を守るため、この問題が業界全体で真摯に取り上げられ、業界挙げて是正の方向と方途に向かって歩み出されるよう心から願うものであります。