ブックレット『どうなるどうする 損保の未来』第二部所収

 座談会『いま、外勤営業の現場はどうなっているか』


司会 事務局三浦 博  出席者 外勤・代理店8氏


 「外勤社員制度」とはなんですか


司会 この座談会は『品川講演』で強調された「代理店制度を守れ」を受けて、営業第一 線で頑張っておられる皆さんにお集まり頂き、外勤・代理店のおかれている状況と展望や注文を語り合っていただこうというものです。まず、日動社の外勤と代理店の違いについて説明して下さい。


A ご承知のように、損保において保険募集に従事するのは契約係社員(外勤社員)と代 理店に分かれます。契約係社員は「保険契約の募集に従事することを仕事として雇用された保険会社の使用人」です。雇用関係のある使用人ですから、就業規則・労働協約があり、給与は固定給プラス歩合給が基本です。一般に直販社員と呼ばれています。

 一方、代理店は保険会社と「代理店委託契約書」を締結し、保険契約の募集をしていま す。収入は代理店手数料です。外勤・代理店は日夜をとわず企業や家庭を訪問し損害保険のことのみならず、多種多様な相談相手となって、お客さんとの信頼関係のもとで今日の日本の損害保険産業の大衆(家計)分野を支えてきました。



 営業環境はどうなっていますか


司会 それでは最近の営業環境はどうですか。どんな影響が現らわれていますか。

B 料率自由化・外社自動車保険・共済などの影響をモロに受けている。顧客は減ってい くし、永年の客との信頼関係がなくなってきている。一生懸命にやっても「ふるい」にかけられるのではないかという不安がある。もうすぐ50才だが、「早く、定年を迎えたい」という気持ちもある。私だけではない。ビクビクしている者が多いように思う。

C 既存の客を守るのに精一杯だが、新しい保険を売れと尻を叩かれる。今般、自動車保 険の人身傷害が付帯されたが、「期中に上乗せをやれ、何件やったか」、満期時に上乗せ更改できるものを喧しく言ってくる。営業効率など考えていない。全くムダな尻叩きだ。

D うちはやはり件数が減っている。車はやっと歯止めがかかった感じだが、火災が落ち る。途中解約で共済に流れるケースが多い。

E 同感だ。火災では内の保険料は月1万だが、向こうは年1万だ。かつては現実に居住 していなければダメだったが、今は住んでいなくとも加入できるようになったから、こんな客も結構とられてしまっている。町内会長が寄り合いのとき勧めているケースやらダイレクトメールも内にも来る。

F 僕ら保険のプロだって、共済のパンフを見ると「入ろうかな」と思うぐらいだ。まし て素人ならなおさらだね。

G 明らかに価格の相違はあるのだから、客が逃げていくのを追っかけても無理と割り切 らざるを得ない。しかし、会社はガンガンガンガン目標を出してくるから「もう堪忍してくれ」と言いたいのが現状だ。

B 料率のダクピング競争といえばS・T社の新しく建てたビルや建物の警備契約をした ら火災保険料30%割引というヤツに最近よくぶつかっている。S社の警備員が保険の資格を取って営業マンをやっているようだ。新築で更改を待っていたらそっちに持っていかれてしまった。2件あった。腹が立って仕方ない。誰にも言えない。

E マスコミ、とくにテレビで外国社が派手な宣伝をするし、大手社も対抗して派手な宣 伝で応じている。一方、共済も新聞や折り込みでダーッと紹介する。外国社は「いいとこ取り」で無審査で80才迄いくというものまで現れている。客としては安い宣伝が効いているから保険やサービスの中身ではなく、値段だけで移ってしまう。「流れ」「時代」と言ってしまえばそれまでだが、本当にやるせないな。

G 確かにそういう流れだが、共済は共済、保険は保険と割り切っている。結局、客の個々のニーズにあったものを提案していくしかないのでは。自分も年をとるが、客も年をとっていく。マーケットも変わっていく。それに対応していくことも必要だ。確かに右肩上がりの高度成長から低成長になった。こういう時代になったから初めてこの業界に「営業力」という言葉が出てきた。今まではそれがなくとも伸ばすことができた。全く、伸びなくなった人や儲けがなくなった人は少ないだろう。工夫で頑張るしかない。

B そうしても、今の流れでは件数が落ちてくのが現実だ。本当に厳しい。



手数料自由化をめぐって


司会 「品川講演」での「代理店制度を守れ」発言をどの様に受けていますか。

A 僕は本当によく言ってくれたと思っている。まさに代弁してもらったような気がした。 直販制度を持っている会社の社長への応援・激励発言という面もあると思う。品川氏は「インシュアランス」新年号でも同様の発言をされている。このほど、代理店手数料の自由化が来年4月まで延期になったという通達が回った。どういう理由か分からないし、知らされていないが、僕は代理店制度を通じて損保産業を築いてきた。お客との関係があまりにも急激な変化で混乱が起きるという判断が行政側にあったのではないかと思う。

C 僕は違うと思うな。行政側は日米保険の合意を早くやられねばらない立場だからそん な配慮はしないと思う。やっぱり、今まで築いてきたメカニズム・仕組みと矛盾が起きるからなんだろうと思う。業界内部から矛盾が起きているのだという視点から見るほうが必要じぁないかな。

D 中小や直販制度を持っている会社の社長たちが、頑張ってくれたのだろう。

F そんな話はきこえてこないよ。

A 頑張ってくれたと期待したいな。

B あからさまにいうが、大手は着々と準備を進めてきて、中小の代理店切り捨て策を取 り、その中で「大型代理店はコンピューターで金がかかる。中小代理店は手数料をとりすぎている」と言っている。大手のいう通りにはならないぞ、ざまぁみろ、という思いだ。

E それに外社はどうなんだろう。あれだけ派手に宣伝しているが、精々1%だと言う人もいる。これこそ日本の募集網の底力だ。通信販売を主流とする外社と直販や代理店で地域密着型の対面募集をやっている日本との差といえるのではないかな。それにしてもテレビ宣伝にはムカつくな。



 コンピューターの功罪について


司会 いま、コンピューターの話が出ましたが。

F この座談会で私が一番年配だから、余計に矛盾を感じています。「いつやめてもいい」 と言われる年ですが、やっぱり仕事は続けたい。やれるうちはいつまでも続けたいというのが本音です。だけど代理店手数料が75%になるとか言われています。少しは伸びてもその方向になっていくのでしょう。それに50万か、70万もするコンピューターの端末を入れないと出来ないと言う。あと何年私が代理店をできるか分からないのに。会社は儲かっているのになぜ下げると言ってくるのか、コンピューター処理するほどの契約もない。矛盾を感じて仕方ない。

D 私も同感です。代理店がコンピューター化によって申込書を一枚400円、100枚で4万円位の経費を補助してもらえるという。それでコンピューターの準備ができるか、無理です。コンピューターが使える人がおらず、人を雇わないとやっていけない。「手数料は下げますよ、経費はそちら持ちですよ」という流れになってきている。

A コンピューター対応ができない代理店は辞めるしかないのかもしれないが、永年、個 人の信頼関係でつないできた客がいて、辞めるに辞められない人も多いと思う。踏ん張っている人も多いが、自動車ははっきり言って、「本」を見て、自分で計算出来るようなものではなくなった。大変複雑になってしまった。

B 自動車保険を自分で扱えず、他の若い社員にどんどん譲っている年配代理店もいます。G この間、2000年問題でもし機械がパンクした時に料率の問い合わせがきたら困る からと3人の社員が料率を算出をした。すると3人の答えが違っていた。そういう事態だ。もうパソコンがなかったら仕事ができなくなっている。

H 私は3年前まで第一線で働いていたのですが、今おれば「あんたはクズ人間ですか」 と言われかねない。たった3年で人の価値は変わるのだろうかと考えてしまう。

C 本社の経営陣はこうした現場の第一線でやっている者の苦しみ、悩みを知っているの だろうか。

D 知っているわけないだろう。いまは「会社が生き残るため」だけしか言えなくなって いる。



「どぶいた」営業の誇り持って


司会 厳しい話が続きましたが、Aさんまとめ的にお願いします。

A さっきも発言しました通り、外勤は永年個人で築き上げてきた客が商売の種です。多 くの外勤社員は親子2〜3代にわたる契約者も持っていましたが、核家族化や会社の団体契約に移ったりし、その上、今日の話に出たように外社・共済をはじめ大手の攻撃によって外勤の市場が荒らされています。

 たしかにコンピューター化は避けて通れない流れでしょう。最新の情勢・情報の中で最新の保険を提案・営業していく人もいるでしょう。しかし、私たちの永年の客は住宅総合 や自動車は16等級を守るだけで結構、安心の保険として単純な保険でいいという客も多いのです。神戸地震の怖さをみんな知っていますが、それでも多くの人は地震保険に入ることを躊躇しています。地震保険料が高いからです。

 はじめに説明したように、どんな時代になっても客の身近にいて、どんな相談乗ってき たという外勤・代理店の原点、「どぶいた」営業の心を改めて思い返しました。

F 品川さんが「インシュアランス」紙上で「代理店制度は損保がサービス産業として国 民生活のセーフティネットの役割を果たす最先端」と指摘されています。私も小さな年配の代理店ですが、全くその通りだと思います。経営者は効率だけの物差しだけで、社会的な存在意義も認識してほしいと思います。


司会 どうもありがとうございました。