ブックレット『どうなるどうする 損保の未来』第二部所収

座談会『朝日火災闘争、今日どんな意味を持つか』

              司会 中井常生

              朝日火災 野口英機 木又啓一 飯阪健一 川島美代子



「朝日火災」どんな会社


司会 朝日闘争が始まって、22年。初めて朝日火災闘争(以下朝日闘争と略)という言葉を聞く若い人のため、朝日火災の会社と組合の説明をしてください。

A この会社は戦後1951年、東洋・第一・太陽社とともに新たに設立認可を受けました。来年50年を迎えます。野村證券奥村会長を始め関西財界の有力者が発起人で、優良な契約者を擁し、小粒ながらも安定した会社でした。1965年、国鉄貨物の運送保険を扱う鉄道保険部と合体。運送保険では大手並みのシェアーを持っていました。

B 全損保朝日支部は小さいながらも全国の地協活動で四役を担い、大阪地協でも議長、書記長、青婦書記長を送り出しました。住友四君の解雇撤回闘争では全損保スト権を提起したり、全損保の中核的な支部の役割を担っていました。

司会 ことの起こりは。

C 1978年(昭和53年)6月22日、「日経」は全国版一面トップで『朝日火災再建にのりだす』と報じ、大阪や名古屋ではその日の夕刊で『朝日火災倒産か』とさらに大きく報じたのです。報じられた内容は株主総会を前に経営トップしか知らないものですから決算指導にあたった筋からマスコミにリークされたものでした。植松社長は「日経」から、取材されているにも拘らず対策を何もせず、客先・代理店・従業員にも見解・説明が一切なく、職場に不安と混乱が生じました。

D 組合の見解のほうが先に出るという状況でした。「大赤字」というが、実際の中身は 正味収保の伸び率が業界トップで、そのため責任準備金を多く積まなければならないという「統一経理基準」によって仕組まれた赤字だったのです。しかし、この報道がその後の従業員に不安と混乱を持ち込み、組合の団結に揺さぶりをかけられるキッカケになったことは否めません。



「組合なんか半年でつぶしてやる」


B そして「再建」のために野村証券から田中迪之亮社長が送り込まれたのです。彼は「たかがサラリーマンの組合じゃないか、半年でつぶしてやる」とか、「入社して定年までいるとは野村では考えられない」とまさに強引に常識・法律・企業の将来も無視した政策をやりたい放題。

A まず団体交渉拒否・人数時間制限から始まり、2年間賃上げ0回答、3臨カットそして廃止、賃金体系改悪、定年切り下げ、退職金大幅カット、就業時間延長、新卒4年間ストップ、正社員女子採用ストップ、信賞必罰体制強行、やりたい放題人事異動、もう枚挙にいとまがありません。

D その結果、女性の正社員は20年間採用なし。今は全国で40名、大阪支店には一人もいません。正社員女子を採用すれば組合員になり「一票」を行使する、代議員に立つ者が現れるかもしれない。それが困るという理由です。出先では嘱託女子社員が切り盛りしています。出先統合後やめないで頑張っている福知山と新宮は女子だけという職場です。

B 法律といえば、田中社長の後任に野村から来た越智社長、業界紙との新任インタビュ ーで「損保では残業するのには組合と相談するのですってね。われわれの常識にはそんことはないのです」という労働基準法のイロハも知らない非常識ぶりを発揮。前任の田中社長以上の異才奇才ぶりに驚ろかされた。



 組織介入始まる


C 通常の場合、「経営危機」であれば打開のために必要な政策・対策を講じ、従業員に 明らかにしていく、必要なら組合に提案し、協議して実行していく。しかし彼らはその方法ではなく、日本でもまともな企業はそうですし、西欧諸国では労使の中では最もっともやってはいけない常識の基本問題に手を染めてきました。組織介入です。大掛かりに、体系的に会社ルートを使ってやりました。

司会 そこをもう少し詳しく。
A まず、密告です。分会総会で「野村流で損保の常識をつぶされてたまるか」と発言し たのですが、なんと翌朝、内務部長が飛んできて、「君は昨日、分会総会で何を言ったのか、社長からえらく怒られた」と言ってきた。分会総会が終わったのは9時半を回っていたが、それが本社に報告されている。こんなことは僕だけでなく、職場会で発言した人は翌日管理職から「君はどういうつもりであんなことを言ったのだ」と聞かれたという例は一杯ある。労働組合の場での発言がその日の内に社長の耳に入っているのですよ。そこまで密告ネットが張られているとは。発言だけではなく、地協や地区協の会議の出席までチェックしていた。

B それに管理職が強圧的になったよ。営業会議の席で就業時間の延長問題について本部 長から皆に「どう思うか」と聞いてきたので、「それはいま組合と会社で協議中のことですから、この席で社員に直接聞くのはおかしい」と言うと「会社が大変なときに会社や組合といっている場合ではない。俺と勝負する気か」ときた。それから組合乗っ取り策もいろいろ進んでいったな。

D 大阪では早帰りの第2水曜日に35才以上の者を対象に管理職組合員によってイフォーマルな会が作られていった。本社から役員やその代理の者が来ると第2水曜日以外でも招集されていた。また、若手を使って中間派と称するものを作り、「○○を落とせ」と命ぜられていた。                     

C ところがあっちはまだ統制管理ができていないからやっていることがよく分かるのです。しょっちゅうどこかへ集められている。家に電話すると「父はここにいます」「連絡があったらここに電話するように言われています」と筒抜け。

A こうして経営者は管理職を使って分会役員選挙に介入してくる。支部役員も会社派で 乗っ取る。そして会社の言うことを聞かない者は遠隔地転勤、新市場開発担当という名目で代理店を一切担当させず、この時代に飛び込みだけをやってこいという嫌がらせをする。



「樋口を飛ばせ」


B こうして経営者が手段を選ばず支部・分会役員の乗っ取りをしてきた訳ですが、神戸分会だけは取れない。そこで分会委員長の樋口君を金沢へ夫婦別居の配転を強行してきたのです。組合つぶし、乗っ取り5年目、もう大丈夫と思ったのでしょうね。ドッコイ、大東京で働いている奥さんの和子さんの訴えを大東京支部が取り上げた。大東京支部田内委員長自ら毎回全国から支部組合員を引率傍聴参加、すごいエネルギーでした。後に樋口裁判は完全勝利するのですが、各支部地協・大東京支部の力はスゴかった。

A 樋口裁判では忘れられないことがあります。前年、本部専従を降りた、いまこの革新 懇のノムさんが証人に立ったんです。経営者側代理人から「証人も単身赴任じゃありませんか」ときたら、ノムさん「違います。私は子連れ単身です」と答えたから廷内大爆笑、裁判官も全員爆笑。経営者側代理人の慌てぶり、いま思い返しても笑ってしまう。

D 笑ってる場合と違うで。今度は組合役員やいうことの聞かない者の昇級・昇格・人事 考課差別をやってきた。この差別は年金に影響するから生涯の差別になってしまう。

 異動もエゲツないことを続けてきた。



ミセシメ人事異動の手口


司会 どんな特徴がありますか。

C 巧妙です。遠隔地で仲間の少ない1〜3人職場に飛ばし、そこで玉突きや塩漬けにする。例えば米子・秋田・高知などは順次たたかう仲間が異動し、一方、今日この座談会に出席している飯阪君は福山14年目、川島さんは和歌山で18年目、藤本君は19年、元支部専従のO君は18年、同じ営業所に塩漬けです。もう一つの手口は同じ人を遠隔地から遠隔地に飛ばすというやり方です。西岡君は大阪〜大分〜木更津〜釧路、南君は京都〜千葉〜釧路〜高崎〜旭川、遠藤君は本社〜宇都宮〜函館〜米子です。降格も巧妙にやってきた。大阪分会副委員長も経験した尼崎営業所長の高山君の場合はその営業所を廃止、高知営業所所長として配転。翌年ここを廃止、高松支店高知駐在に。また翌年、営業所を復活、新所長を他から連れてきて、元所長の同君は女性がやっていた仕事をする担当課長にしたのです。



朝日闘争、今日どんな意味を持つか


司会 まるで組合つぶし手口の「デパート」じゃぁないですか。ところが、それらはすべ て弾劾されてしまったわけです。皆さんは8連勝、朝日経営者は8連敗。会社がやってきたことはすべて間違っていたことが、労働委員会・地裁・高裁・最高裁で明らかになりました。この完全8連勝、逆に経営者の完全8連敗。これが契約者に安心と安全を売る企業でしょうか。こんな企業を持ってる産業もないでしょう。これからどういう展開になるのでしょうか。

ABCD 年末に関西電力の賃金・昇格差別問題が和解解決し、大阪では大型・長期の労 働案件はほぼなくなりました。会社は当地裁の和解努力すら断り、判決の道を選びました。会社は自ら9連敗・完敗の道を選択したといえると思います。

22年は決して短い期間ではありませんでしたが、会社は私たちのようなひ弱だった者を強く逞しく鍛えてくれました。この数年、バブルがはじけて不良債権・放漫経営問題の結果、多くの金融機関が消え、多くの真面目な従業員・家族が困難な状況に追い込まれました。まともな労働組合があるかどうかの違いも大きかったと言えるでしょう。

22年前、会社は「大赤字」宣伝で「今に会社が潰れるぞ」と脅し、「組合なんか半年でつぶしてやる」とあらゆる不当労働行為を好きなようにやってきました。会社の思う通りになったでしょうか。こんなやり方では通用しないという見事な社会的認識相場を作ってくれました。

私たちは今、朝日火災が損害保険会社の一社として健全に存在し、その中で私たちも多 くの仲間と一緒に働いていることを誇りにしたいと思います。


司会 どうもありがとうございました。


朝日経営者東京地裁の緊急命令を励行せず(その後の状況補足)


 2001年8月30日、東京地方裁判所は会社の中央労働委員会命令の取消しの訴えを全面的に棄却する判決を下しました。朝日火災はこれで労働委員会・地裁・高裁・最高裁と23年間にわたって9連敗となりました。同時に裁判所は命令のうち、不当配転した4名の従業員を元の職場に戻すこと、18名の賃金・賞与・職能資格・役職差別を是正し、過去の差額を支払うことを命じる緊急命令を出しました。緊急命令を実行しなければ一日10万円以下の過料(罰金)が課せられます。労働事件で緊急命令が出されるのは希で、金融機関においてはこれまで例がありません。しかし、朝日火災は地裁判決を不服として東京地裁に控訴しました。

その後、中央労働委委員会は、会社を呼び出し説明を求めましたが、会社は「緊急命令にたいして現状では履行している」と回答。中労委は一部しか履行されていないため2月28日に東京地裁に「不履行通知書」が提出され受理されました。現在東京地裁で緊急命令から既に6ケ月が経過しているので現在過料(罰金)制裁について審理されています。

 2002年3月19日、東京高裁において第1回口頭弁論がはじまりました。裁判長は「話し合いで解決できないものか」「何回も審理するつもりはない。できれば6〜7月には結審できるように準備したい。」と発言。会社の引き延ばしが許されない情勢となっています。また2002年2月20日、東京地裁は野村證券が男女雇用機会均等法に違反するとして、平成11年以降の違法な男女差別について慰謝料として5600万円を支払えと命じる判決が下されました。野村證券氏家社長が「野村を社会の倫理、規範から一寸足りともずれない会社に変える。法の精神にのっとった堂々とした行為しかとりえない会社にする」との公約を守り、野村證券と子会社・朝日火災を指導しただちに判決を守って解決することが求められています。